OGAWA Yuhei
構造材料研究センター 材料評価分野
鉄鋼材料グループ 研究員
経歴
2007.4-2010.3
長崎県立長崎西高等学校
2010.4-2014.3
九州大学 工学部 機械航空工学科
2014.4-2016.3
九州大学大学院 工学府 水素エネルギーシステム専攻 修士課程
2016.4-2019.3
九州大学大学院 工学府 水素エネルギーシステム専攻 博士課程
2019.4-2020.3
産業技術総合研究所 九州大学連携研究サイト 特別研究員
2020.3-2023.2
九州大学大学院 工学研究院 機械工学部門 助教
2023.3-
現職
小川さんへQ&A
Q:どのようにしてNIMSを知りましたか?
A:機械工学系の学科で大学時代を過ごしましたが、入学直後に初めて受けた専門の講義が、元々NIMSに所属されていた先生の「材料力学」でした。これがきっかけで構造材料の性質や使われ方に興味を持つようになり、国内随一の材料研究機関であるNIMSの存在を知りました。その後4年生に進級して研究室を選びましたが、なんと配属先の教授の先生も、丁度その年度にNIMSからの異動で九州大学へ着任された方でした(配属後にその事実を知りました)。思い返せば、私がNIMSで働く運命はこの頃から決まっていたのかなと感じてしまいます。
Q:今一番力を入れている研究テーマとその意義は?
A:「オーステナイト鋼」と呼ばれる部類の鉄鋼材料を対象に、「水素による強度や変形特性の変化」を研究しています。クリーンなエネルギーとしての面ばかりが取り上げられがちな水素ですが、私たちの生活に不可欠な鉄鋼材料にとって、水素は古くから知られた天敵で、数万個の鉄原子の中にたった1個の割合で水素原子が侵入しただけでも、脆弱で壊れやすくなってしまいます。その中で私が偶然見つけたのは、水素を多量に加えることによって、逆に強度も延性も向上するという、驚くべきオーステナイト鋼です。この画期的な発見を基に、「水素を弱みから強みへと変える」ことを目指して、日々材料の研鑽と未知現象のメカニズム解明に取り組んでいます。
Q:NIMSではたらく魅力は?
A:私の場合は約3年間、大学で助教として勤務した後にNIMSに移りました。学生と二人三脚で進める部分での楽しさは無くなりましたが、やはり教育・指導・講義負担がない分、研究の立案から一定水準の成果創出に繋がるまでのスピード感は圧倒的に速いと感じます。また、維持・管理が難しい高機能かつ最先端の実験・分析装置群が豊富に揃えられていて、各々の装置に対して専属の技術者から手厚いサポートが受けられるのも、国立研究所ならではの体制だと思います。1つの研究課題を突き詰めていると、自身の技術や知識だけでは乗り越えることが困難な壁に必ず突き当たります。この点において、「物質・材料」という共通項を持ちながらも、その中で細分化された各分野で最前線を張る研究者が一堂に会したNIMSは、研究者としてまだまだ未熟な私にとってまさに知の宝庫です。近隣の部屋や建物に行けば、異分野の専門家と気軽に深い議論ができる。この研究者同士の距離感の近さこそ、私が思うNIMSの最大の魅力です。
Q:つくば市へ移り住んでみてどうでしたか?
A:人生で九州の外に住んだ経験のなかった身にとって、気候、物価、食事など、初めはいろんな面で不安だらけです。これは同じ長崎県出身の妻もそうでした。特に驚いたのは日没の早さです。九州では冬でも17:00過ぎまでは明るいですが、つくば市は16:00過ぎると早くも暗くなり始めるので、慣れるまでに少々時間がかかりました。一度慣れてしまえば、街並みも新しく綺麗で、運動ができる公園や飲食店も充実しているので、とても気に入っています。研究者だと毎年のように学会で海外出張がありますが、羽田・成田空港にも電車とバスですぐ行けてしまうので、九州に住んでいた頃に比べると非常に便利になりました。
Q:学生のみなさんに伝えたい研究職の魅力は?
A:実は私自身、元から研究者を志していた訳ではなく、大学を卒業して普通に社会に出て働くのだろうと考えていました。気持ちが変わったのは大学院修士課程のときで、当時進めていた研究を、自分が卒業したあと別の誰かに託すのは惜しい、と不意に感じたことがきっかけです。研究に限らず、もし皆さんも「これは人に譲れない。自分がやる!」と思えるほど熱中できる物事を見つけたら大事にして欲しいと思いますし、そう思えるあなたは、実は研究者向きかも知れません。自身の興味がそのまま仕事となり、その成果が論文という明確な形で世界中に公知され、自身の功績として受け継がれていく。この記事を読んで、そんな研究職のやり甲斐や魅力に少しでも惹かれ、研究職を目指す学生さんが増えてくれたら嬉しいです。