レーザ3D プリンタで作製したステンレス鋼の驚くべき耐食性
―ステンレス鋼の真の実力を取り戻すために―
レーザ粉末床溶融結合(LPBF)法により、結晶学的集合組織と粒界密度を任意に制御したステンレス鋼を作製しました。詳細な耐食性評価試験の結果、このステンレス鋼は、金属組織まったく異なるすべての試料において、きわめて高い耐食性を示すことを見出しました。ステンレス鋼は塩化物を含む環境で局部集中的な腐食のリスクをもっていましたが、適切なLPBF条件により、希少な合金元素の増量や添加に頼ることなく、飛躍的な高耐食性化の実現が可能であることが示されました。さらに、通常の鋼材とは異なりすべての露出面において等価に優れた耐食性を示すことも解明されました。この成果は、これまで使用が適さないと考えられていた条件におけるステンレス鋼の用途拡大や、機械的性質の異方性発現を活用した革新的材料開発への展開も期待されています。
堤さんへQ&A
Q:なぜ金属3Dプリンタを利用して、このステンレス鋼を作製したのですか?
A:3Dプリンタは形状付与が自由自在であることが大きな特徴ですが、実は物性も大きく変化し、異方性(方向で物性が変わる)も現れます。耐食性は材料にとってとても重要な物性の一つですが、当時ほとんど知見がありませんでした。良い結果が得られる予感があり、ぜひ詳しく調べてみよう、という思いで、頼もしい共同研究者らとともに、この研究に着手しました。
Q:この成果のポイントは?
A:造形時に欠陥が生じないようにきちんと作りこめば、原子配列の異方性が強くても弱くても、また、どの方向であっても、耐食性が大幅に向上することを発見しました。これは、希少で高価な他の元素を追加しなくても、腐食しないステンレスが製造できることを意味しています。
Q:ステンレス鋼を実際どのような場面で使用しようとしているのですか?
A:ステンレス鋼は使用環境によってはすぐ腐食してしまうのですが、この原因は、微小な不純物粒子です。不純物粒子により過小評価されてきたステンレス鋼の信頼性を、新しい技術で取り戻せるのです。
例えば、非常に厳しい環境であっても、わずかな腐食すら許されない、医療用のインプラントや、燃料電池の基幹部材への応用が期待されています。
Q:なぜ腐食の研究者になろうと思ったのですか?
A:華やかな「ものづくり」ではなく、腐食は地味(笑)な印象があるかもしれません。ところが、いざやってみると、とても奥が深いことや、ニーズが大きい(腐食で困っている人が多い)ことをすぐに実感し、この分野の魅力に取りつかれました。
NIMSでは「ものまもり」としての研究を日々楽しんでいます。